【 ロロット 】   「ビクビク……じいや、本当に大丈夫ですか?」
  【リースリング】   「はい。今のところ、辺りに人影はございません」
  【 ロロット 】   「ほっ。それじゃあ、しばらくここで大人しくしているんですよー」
  リースリングに見守られながらロロットは、生徒会室の隅にコソコソと段ボール箱を設えていた。
  【 ロロット 】   「じいや、ありがとうございます。あとは私一人で平気ですから」
  【リースリング】   「そうですか。ではまた、御用があればお呼び下さい」
  もう一度周囲を見まわした後、リースリングは颯爽と朝の生徒会室から去って行った。
  【 ロロット 】   「ふぅ、これからどうしましょう」
  【 ロロット 】   「とりあえず、ごはんでしょうか? それとも、お風呂でしょうか?」
  【 ロロット 】   「……えへへ、でも、可愛いですねー」
  【 シン 】   「おはよう、ロロット」
  【 ロロット 】   「ひゃわぁっ!? かかかっ会長さん!?」
  【 ロロット 】   「おおおっ、おはようございます! 今日も絶好の静電気日和ですね!」
  【 シン 】   「そうだね、ちょっと乾燥してるかな」
  【 ロロット 】   「そうなんですよー。青天の霹靂というやつですね」
  【 シン 】    「え、そうなのかな……? まぁいっか」
  【 ロロット 】   「会長さんは、こんなに朝早くからどうしたんですか?」
  【 シン 】   「うん、それが、バイトしてた時の習慣で目覚ましより早く目が覚めちゃってさ」
  【 ロロット 】   「へー、そうなんですか。なんだかおじいさんみたいですね」
  【 シン 】   「う……。ところで、何が可愛いの? トントロ?」
  【 ロロット 】   「ぎくり」
  【 シン 】   「その段ボール箱の中で微妙に蠢いてるものって……?」
  【 シン 】   「はっ! まさか、本物の仔豚っ!? じゅるり……」
  【 ロロット 】   「ちっ、ちがいます〜っ! これは可愛いワンちゃんです〜っ!」
  【 シン 】   「ええっ!? ワンちゃん!?」
  【 シン 】   「でも、その言い方だと、まるで豚は可愛くないみたいに聞こえるけど……」
  【 ロロット 】   「トントロはトントロですっ。それだけで素敵なんです」
  【 ロロット 】   「って、はわわ……言ってしまいました……がっくり」
  【 シン 】   「ロロットがトントロを大事にしてるのはみんな知ってるよ」
  【 ロロット 】   「そうじゃありません! ワンちゃんをこっそり生徒会室に連れてきてしまった事です……」
  【 シン 】   「あ、そうなんだ。その犬、ロロットのペットなの?」
  【 ロロット 】   「え? あ、はい、そーですそーなんですよー。えへへ、可愛いですか?」
  【 シン 】   「うん。犬の種類とかには詳しくないんだけど、可愛いと思うよ」
  【 ロロット 】   「そうですよね、可愛いですよね!」
  【 シン 】   「首輪とかはつけないの?」
  【 ロロット 】   「う、うちは自由な生活をモットーにしてますから。トップブリーダー推奨です」
  【 シン 】   「そうなんだー。じゃあ、しっかり躾とかされてるんだね」
  【 ロロット 】   「はい」
  【 シン 】   「何か芸とかもできるの?」
  【 ロロット 】   「勿論です。ほーらワンちゃん、お手なのです」
  【 シン 】   「…………」
  【 ロロット 】   「…………」
  【 シン 】   「欠伸してるね。眠たいのかな」
  【 ロロット 】   「今日は調子が悪いみたいですね。それではおかわりです」
  【 シン 】   「…………」
  【 ロロット 】   「…………」
  【 ロロット 】   「ど、どうしたんでしょうね〜?」
  【 シン 】   「先にお手をしないとだめなんじゃないかなぁ?」
  【 ロロット 】   「えっ? そ、そうなんですか?」
  【 ロロット 】   「おかしいですね。ガイドブックには何も書いてありませんでした」
  【 シン 】   「も、もしかして、普段はブリーダーの人に任せっきりだから、あんまり言う事を聞かない、とか?」
  【 ロロット 】   「あ、そ、そう言えばそうでした。なかなか大変なんですよー」
  【 シン 】   「へえー。さすが、お金持ちのペットの飼い方は違うね」
  【 ロロット 】   「そうでもありませんよ。私とワンちゃんはとっても仲良しさんなのです」
  【 ロロット 】   「ね〜、ワンちゃん。ほら、抱っこしてあげますよー」
  【 ロロット 】   「って、きゃわっ!? なんだか、もこもこして温かくて、変な感じですっ」
  【 シン 】   「え〜っと……箱入りなんだね」
  【 ロロット 】   「そ、そんなことはないですよ? 箱に入ってるのは校門の前にいたからで」
  【 ロロット 】   「ってはわわっ!? なななんでもないのです」
  【 シン 】   「そ、そう? ところで、さっきからずっと気になってたんだけど……」
  【 シン 】   「この子の名前は、なんて言うのかな?」
  【 ロロット 】   「えう!? なっ、なまえー、ですか?」
  【 ロロット 】   「えっと、ううんと、どうしましょう、まだ考えてませんでした……」
  【 シン 】   「……あのさ、ロロット」
  【 ロロット 】   「ビクビクッ! ちちっ、違いますよ!?」
  【 ロロット 】   「このワンちゃんは、別に今朝拾ってきたとか、そういうんじゃありませ〜んっ!」
  【 シン 】    「やっぱり、捨て犬だったんだ……」
  【 ロロット 】   「あ、あぁっ! あうぅ……バレてしまいました。残念無念です」
  【 シン 】   「ロロット、どうして飼い犬だなんて嘘ついたりしたの?」
  【 ロロット 】   「だ、だって、それは……ワンちゃんが、かわいそうだったんです!」
  【 ロロット 】   「もしこの子が捨て犬だって知られたら、また捨てて来いって言われると思って、それで……」
  【 シン 】   「なんだあ、そんな事か」
  【 ロロット 】   「そんな事じゃありません! 大事な事ですっ」
  【 シン 】    「大丈夫だよ。誰も捨てて来いだなんて言わないよ」
  【 ロロット 】   「えっ……本当ですか!?」
  【 シン 】   「うん。僕だって、捨てられてひもじい思いをするのが辛いってのは理解できるからね。それに生徒会長だし」
  【 ロロット 】   「か、会長さんっ! ありがとうございます!」
  【 シン 】   「だけど、生徒会室で飼うのはちょっと無理があるかなあ」
  【 ロロット 】   「そうなのですか? しょんぼりです……」
  【 シン 】   「でも任せて。商店街の知り合いに、ペットを欲しがってる人がいるんだ。放課後になったら一緒に行ってみよう!」
  【 ロロット 】   「おお! さすがは会長さん、頼りになります〜」
  【 シン 】   「いやあ、それほどでも」
  【 ロロット 】   「えへへ。良かったですね、ワンちゃん」
  ロロットは満足そうに微笑みながら、段ボール箱の中で尻尾を振る子犬の頭を優しくなでた。
そしてその翌日……。
  【 ロロット 】   「会長さ〜ん」
  【リースリング】   「おはようございます」
  【 シン 】   「あ、ロロット。それにじいやさん。おはようございます」
  【リースリング】   「リースリングとお呼び下さい」
  【 シン 】   「あ、はい、すみません。それで、あの〜、その段ボール箱は?」
  シンはリースリングの抱えた段ボール箱の中を覗き込む。
  【 シン 】   「なんとっ!? 犬が……いっぱい……」
  【 ロロット 】   「はい、そうなのです! 街中を走り回って身寄りのないワンちゃんたちを保護してきました!」
  【 シン 】   「へ、へー、そうなんだ……」
  【リースリング】   「お嬢様の優しさは、まだまだこんなものではありません」
  【 ロロット 】   「会長さん、この子たちの里親探し、一緒に頑張りましょうね!」
  【 シン 】   「そ、そうだね……うん、がんばろう」
  天使のような笑顔を前にしては、シンも素直に頷くしかないのだった。